そのテレビはバスでイビキをかきながら口を開けて居眠りしている人を映していた。
父さんはあんまり大袈裟には笑わない人なんだけど、そのテレビに映る人を観て大笑いをした。
だからボクもつられて大笑いした。
大笑いしたらお腹が空いたので、ボクたちは「空腹を満たす旅」に自転車で出掛ける事にした。
父さんは黄色いマウンテンバイクで、ボクは赤いマウンテンバイクだ。
父さんは「できるか?」と言って前輪をジャンプさせた。
ボクは「出来るに決まってる!」と言って父さんより上手くジャンプさせた。
回る寿司屋があったから二人で入った。
寿司はボクの大好物。
でも父さんはあまり好きじゃない。
ボクたちは二人で10皿食べた。
でも父さんは最後にボクが食べきれなかった一つを食べただけだから本当は殆どボクが食べた。
父さんは「○◯サビ抜きで」と職人さんに注文するためだけに居る人みたいだった。
ボクが「もっと食べなよ」と言うと「いっぱい食べたよ」とすぐに分かる嘘を言った。
それから僕らは本屋へ行った。
ボクは集めている漫画を一冊買った。
父さんは何も買わなかった。
家に帰ってボクは買ったばかりの漫画を読んだ。
父さんはボクの側に座って洗濯物をたたんでいた。
時々、洗いたてのタオルをボクにぶつけた。
ボクが漫画を読むのをやめて睨むとスッとよそ見をした。
「コラッ!」とボクが言うと「なんですか?」と変な顔をして白々しく言った。
ボクは思わず笑ってしまった。
父さんも笑った。
漫画を読み終わったからキャッチボールのできる公園に車で出掛けた。
キャッチボールをしようと父さんを誘ったけど、ボクはあまり得意じゃない。
でもやっているうちにコツが掴めてきて、早いボールが投げられる様になった。
速いボールもキャッチ出来る様な気がして「早いボール投げて!」と父さんに言ったら本当に速いボールを投げてきた。
何とかキャッチできたけど、グローブがボールの勢いでボクの鼻に直撃した。
鼻血が出た。
父さんが「ごめんな…」と言いながらティッシュペーパーで拭いてくれた。
ボクは「父さんが悪いんじゃないよ」と言った。
車に乗って家へ帰る事にした。
行きは車の中で音楽を聴いたけど、帰りは話をした。
ボクは「父さんは数字に色がついて見える?」と訊いてみた。
これは前から訊いてみたかった事。
父さんは「どういうことかな?数字に色がついて見えるの?」と逆に訊いてきたから、ボクは数字に色がついて見える話をした。
数字がそれぞれ何色に見えるか教えて欲しいと言うので教えてあげた。
「1は赤、2は青、3は緑、4は黄、5は紫、6は水色、7は金、8はオレンジ、9は銀、10は銅。ボクが一番好きな色は青。だからボクが一番好きな数字は2」
そう話すと父さんは「おまえは面白いな」と言って笑った。
家に着いたら父さんはカレーを作りはじめた。
ボクは宿題をやった。
カレーを煮込むあいだ二人で野球盤をやった。
ボクが勝った。
お腹が空いたから二人でカレーを食べた。