ドーナツ
















待ち人は約束通りに現れて、ボクのビンテージギターを50万円で買っていった。


歯科医で羽振りが良さそうだった。


歳はボクより2つ上。


2つしか変わらないはずなのに、とても年寄りに見えた。


長年連れ添ったギターなので別れる時は辛かった。


手に入れた日の嬉しかった想い出が蘇って、辛さに拍車をかけた。


だけど、ボクにはお金が必要だった。


ヨダレやゲップや悪口や軽口ならいくらでも出せるんだけど、お金はどこを叩いても掘っても出てこなかった。


手に入れたお金でボクは散髪をして履歴書を買った。


履歴書を書くためドーナツ屋に入った。


ドーナツを頬張りコーヒーを一口飲んで、履歴書をみた。


学歴欄の卒業年度がわからない。


職歴もしかり…。


ペンも持っていない。


だからボクは、黙々とドーナツを食るほか手が無かった。


こんなに美味しくないドーナツは生まれて初めて食べた気がした。