坂道をてくてく歩いて登っておりますと後ろから不意に声をかけられた。
「兄さん、寒いのかい?」振り返ると見知らぬ白髪頭のお爺ちゃんがボクの着ていたアディダスのジャージを指差している。
ボクは「まあ、これ着て丁度くらいです」と応えた。
Tシャツ一枚のお爺ちゃんは「オレはこれだけだけど、寒くないよ」と少し得意気に言った。
そしてポケットから万歩計を取り出して「これやってんだよ」と言った。
ボクは「一万歩くらい歩くんですか?」と言うと「一万歩はたまにしかいかないな」と言った。
そして「これから庭の草抜きをしなきゃいけないんだ」と話を跳躍させた。
跳躍させたかと思ったら「やめた、やめた、今日は暑いからやっぱりやめた」と言った。
そして「草抜きは曇った日にやった方がいい。だから今日はやめた」と続く。
ボクは「そうですね」と調子を合せた。
するとお爺ちゃん「テレビドラマ見たりするかい?」と聞いてきた。
お爺ちゃんの話はオリンピック選手並みの跳躍力を発揮し続ける。
ボクはドラマはまったく見ないので「見ませんねぇ…見たりしますか?」と逆に尋ねると「見るよ、サスペンス!」ときました。
そして「ああいうのを見てると悪い事できないね。絶対に犯人捕まるからね」と言った。
ボクは冗談のつもりで「しかも、たった2時間で捕まっちゃいますよね」と言うと真剣に「そうなんだよ」と返されてしまった。
お爺ちゃんは本物です。
更にオリンピック選手並みの跳躍力で「人間は生まれ変わると思うかい?」と聞いてきた。
まさか坂道を歩きながら見ず知らずの人にそんな質問をされるとは思っていなかった。
ボクは「今のボクが生まれ変わりだとしたら前世の記憶がないので、ボクには分かりませんね」と、さほど真剣ではないけれどそんな風に答えた。
お爺ちゃんはオリンピック選手なので、ボクの目を見ながらもボクの答えはまったく無視して「オレは生まれ変わったら、警察官か弁護士か裁判官になりたい」と言った。
ボクもオリンピック選手並みの心肺能力がお爺ちゃんのおかげで備わってきたので「裁かれるより、裁く方ですね」と自然に言う事ができた。
お爺ちゃんは「次はそうなりたい」と言った。
「次は?」に少し引っかかったが、ボクは左にお爺ちゃんは真っすぐに「ではでは」と別れた。