極寒の南極だか北極、二人の勇敢な冒険家がその辺りの横断を試みています。
一人はノッポでもう一人はチビであります。
「まったくもってお寒い感じですな」とノッポがチビに話しかけました。
その時チビは屈んでアイゼンの紐を締め直していましたが、その手をとめて「ほんに紙くず屋さん、私はどうしてこんな事を始めてしまったものやら…」と応えました。
「ひと休みしましょうや」とノッポが言うとチビも多いに賛成であると応えました。
おもむろに毛糸の帽子の中から100円ライターを取り出しました。
「残りはこれだけです」とノッポが言いうと、チビも得心した面持ちで黙って頷きました。
ノッポがライターの火をつけると、二人はそれに手をかざして暖を取りました。
冒険の発案者はノッポでした。
この極めて過酷な冒険に際して彼が用意した装備は、二組のピッケルとアイゼン、それと100ライター34個でした。
ノッポは少し抜けた男です。
寒さに鈍感で、ニット帽をかぶって登山靴は履いているものの、吹雪の中でも短パンとタンクトップ一枚といった出で立ちです。
一方のチビも、ノッポに輪をかけたくらい抜けた男で、短パン、タンクトップは勿論の事、足下はクロックスです。
クロックスにアイゼンです。
なので、3メートルも歩くとアイゼンが緩み、それをいちいち直さなくてはいけないのです。
二人を見ていると絶望的な気持ちになります。
「火は暖かいですね」とノッポが言うとチビは得心した面持ちで黙って頷きます。
「でも近付き過ぎると熱いですよ」と、したり顔でノッポの顔を覗き込むと思慮深か気に頷いてみせます。
それからどちらからともなく「リスペクト!」と叫んでハイタッチを決めます。