2023年の3月中旬頃にダイちゃん(熊谷太輔氏)から電話がありました。
それは2020年に録音したメリィさん(ライオンメリィ氏)とのジャムセッションを仕上げたいというものでした。
コロナ前に録ったその音源はメリィさんがピアノやオルガンを思いつくままに即興で弾き、ダイちゃんがそれに合わせてドラムを叩くといったものでした。
即興と言えども曲やリズムのバリエーションは多彩でその時点で既にとても良い感じでした。
私は録音担当だったので一曲ギターを少し弾いたくらいで(特に必要もなかった)演奏には参加しませんでした。
その日のセッションが終わり次はどんな展開になるのかなと楽しみにしておりましたが…程なくコロナがやってきました。
残念ながら想像した次の展開には至らず、人との接触を避ける日々にこのセッションは自然消滅しました。
振り返ると2023年に世間がコロナと共存する事に決めるまでの間に私は多くのものを失いました。
私に限らず皆さんもそうだったのではないでしょうか。
能動的な関わりでは無かったのですが、このセッションも失ったもののひとつでした。
ダイちゃんから連絡を貰ってから早速音源を探し出し、改めて当時の録音を聴きなおしました。
既に面白いものでしたが、もっと面白くしたいという個人的欲求が沸々と湧き上がってしまい、私が関われそうな音源に思わず手を加えてしまいました。
ヤマハのアンサンブルミキサーというアナログ機材がスタジオにあるのですが、それに内蔵されているリズムボックスに合わせて二人が演奏している曲が数曲ありました。
適当にマイクを立てて録音していたにも関わらず、それぞれの楽器が分離よく聴こえる状態だったので、二人の演奏を部分的にカットして、そこに新たなバースやフックを付け加え厚かましくも歌まで乗っけてしまうという暴挙を犯してしまいました。
ところがそんな滅茶苦茶なやり方だったにも関わらず二人の演奏が新たに加えた展開にピタッとハマる奇跡の様な瞬間があり興奮を覚えたものです。
嬉しくなってしまい、ついつい再構築作業は一曲に止まる事なく数曲に及んでしまいました。
後日、調子に乗ってダビングしたものを一旦ダイちゃんに聴いて貰いました。
どうやら気に入って貰えたようで作業をそのまま続ける事になりました。
再構築した曲に合わせてダイちゃんがドラムやパーカションを丁寧に叩き直した事で、バラバラだった演奏が接着剤で止めた様にひとつにまとまりました。
一緒に新たな曲も作りました。
ちょっといつもと違うやり方で、ダイちゃんが叩き出すビートに合わせて後から曲を乗せました。
その曲でダイちゃんは「ラップ」も披露しております。
青山さんには全ての曲でギターを弾いて貰いました。
どんな曲でも直ぐ対応できて、短い滞在時間でも曲の肝になるイントロやリフをひねり出し、おまけに僕の知らないコードを教えてくれるありがたい存在です。
青山さんの演奏を聴きたければヘッドホンで右耳に集中してください。
青山さんはだいたい右側にいます。
政治思想とは別の話です。
メリィさんには再構築した音源の他にも新たに作った曲のダビングをして貰いました。
メリィさんは天才なので、ほぼ全てワンテイクOKなのです。
嘘じゃないです。
いつもそうです。
何故あんな芸当が出来るのか知り合ってもう何年にもなりますがいつも新鮮にびっくりしています。
磯崎くん(磯崎憲一郎氏)にも一曲ベースを弾いて貰いました。
磯崎くんは世の中の事象を何でもビートルズに例えて話せるビートル人です。
ちょうどビートル人に弾いて欲しい曲があったのでヘフナーピック弾きでよろしくと依頼しました。
でそのように演奏してくれた次第です。
ここまで書いてはたと違和感を覚えております。
そもそもこれはダイちゃんのプロジェクトだったのに、いつの間にか私のものになっておるではありませんか。
アルバムタイトルも名義も僕の新譜という事になっている。
果たしてこんなことが許されるのでしょうか。
私はダイちゃんとこのプロジェクトのおかげでコロナによる喪失感を埋める事ができたと言うのに。
恐ろしい…。
今回の暴挙は次にダイちゃんのソロアルバムを録音する事とカンロ飴を差し上げると言う事で許して貰おうと考えております。