レーズンパン


そいつは頼みもしないのにボクの過去や未来を語って聞かせた。

過去の事は殆ど忘れてしまっているので、そいつの言う事を聞いて思い出したような気分になった。

未来については考えた事もなかったので未来が見えたような気分になった。

ボクはレーズンパンを食べながらそいつの話を聞いていた。

ボクは決まってレーズンをほじくりながら食べるのに、そいつの話は切れ目がないのでそれが出来なかった。

レースンをほじくりたいのにほじくれない。

憂鬱になった。

ボクは思うにならない事が何より辛い性分なんだ。

きっと辛い表情をしていたのだろう「何か悩みがあるのでは?」と切れ目無く話すそいつが切れ目無く言うので「そうだ」と応えた。

そいつはその悩みを打ち明けろと言う。

だから「思うにならない事がある」とそいつに打ち明けた。

するとそいつはしたり顔で「それはお気の毒に」と言い「分かち合い慰め合いましょう」と言う。

「お気の毒に」は分かったが「分かち合い慰め合う」は訳が分からない。

そもそもそいつがボクの憂鬱の原因ではないか。

だからボクはそいつに「うせろ」と言ってやった。

そしたらそいつは鳩が豆鉄砲をくらった様な顔になり固まってしまった。

暫く固まった後、西洋人の様に方をすくめてあっちの方へ去って行った。

おそらくあっちの方の人はレーズンパンをほじくれなくなってしまうのだろうな。

だからって憂鬱になっても、あっちの方の人には、あんな奴と分かち合ったり慰め合ったりしないで貰いたい。

あいつはきっと嘘つきだよ。