4/福岡史朗
2022/12月3日(土)に新譜「4」を発売いたします。
制作に取り掛かった当初、私はビートルズの記録映画「ゲットバック」にすっかり感化されていたので次作は是非ともバンドでスタジオライブアルバムを作りたいと考えていました。
しかしそれは諸々の事情で都合が付かず残念な事に断念せざるを得ない事態となりました。
そこで往生際の悪い私は独りでスタジオライブアルバムに近い録音物を作ろうと思いました。
大袈裟な書き様ですがそれはピアノの弾き語りを基にして多重録音するというものです。
歌と伴奏を同録にすれば全ての要素を多重録音にするよりもライブ感が醸し出されて上手くすれば目論み通りの物になるのでは無いかと思ったのです。
が、普段ピアノを弾かない(そもそも弾けない)私にとってそれはかなり難しい試みでした。
単純なピアノ伴奏もままならないのに弾き語りですから。
実はこれには事情がありまして当時コロナワクチンを打った後遺症で左脇のリンパ腺がおおいに腫れまして、恐らくその影響からだと思うのですが左手中指に力がほぼ入らなくなり(今は改善してます)ギターでコードが押さえられなくなっていたのです。
病院に行きMIR検査なども受けたのですが原因不明という診断になすすべ無し、ならばギターの代わりにピアノでやってみるかという考えに至った次第です。
私クラスの優秀なピアニストともなりますと左手は親指と小指くらいしか使用しないので中指は立てる以外には無用な物となります。
歌はそこそこ上手くいったのにピアノが駄目、ピアノは弾けたのに声が裏返るみたいな事を3万回くらい繰り返しどうにかこうにか11曲を録音しました。
どうしてもテンポがキープできず数曲はリズムボックスを導入しましたがそれ以外は純然たる弾き語りなのであります。
コロナの隙間を縫って松ちゃんとユッキーにも少し手伝って貰ったのでちょっとだけバンドです。
それではあまり普段と変わらないでは無いかという誰かの声が聞こえた気がしましたがそんな事はないのであります。
これは明らかに私にとって新基軸であり炊き立ての白米にブルーベリージャムを乗せて食べるくらい画期的な試みだったのです。
この三年でライブの収益はほぼ無くなりCDも以前ほどは売れません。
以前は売れていたような書き振りですが元々売れないのに輪をかけて売れません。
ブルースです。
淡谷のりこの感じではない方のブルースです。
製作費の捻出もままならぬ状況でしたが念仏を唱えて何とか搾り出しました。
わずかに残った歯磨き粉のチューブを破いて歯ブラシに擦りつけた感じです。
それ故にこれまで健太郎さんにお願いしていたマスタリングも今回は自分でやりましたしデザインはマキくんではなく高校の同級生のクマシロくんに頼みました。
クマシロくんは無茶な頼みができる数少ない友達です。
メリーさんにはビリープレストンをやって貰いたかったのですが今回はタイミングが合わずお願いできませんでした。
これはもう新基軸なのであります。
高校生の頃クマシロくんとは授業が始まる前に互いのノートや教科書を交換して授業そっちのけで落書きを描きあった仲です。
私の教科書はクマシロくんの落書きで溢れクマシロくんのは私の落書きで溢れていました。
クマシロくんに当時の落書きを再現して貰いそれをそのまま今回のアルバムジャケットにしました。
思えば最初にバンドを組んだのもクマシロくんとでした。
二人ともビートルズが好きでビートルズみたいになりたいと思っていましたが残念な事に情熱で才能は補えなかったのであります。
決して悲嘆に暮れている訳では無いのですがバンド結成時に思い描いていた我々の未来は少なくともこんな感じでは無かった筈です。
当時の我々は自分達を大天才であると信じて疑わない恐れ知らずの若者でありました。
私などは8ビートが理解できず4拍目と8拍目に付けるべきアクセントをどうしても1拍目だけにつけてしまう習性があり、どんなタイプの曲でもインディアンがトーテムポールの周りで踊る様な曲に変化させてしまう大天才であったにも関わらずです。
クマシロくんにしてもエンディングが近づくと楽曲の特性など完全に無視して必ず脈絡のない奇声をあげる大天才でした。
昨日の事の様に思い出せる出来事でも長く生きていると多くの事が昔話になります。
大体が笑い話なのですが少し哀しかったりもします。
アルバムタイトルの「4」はシロウの「4」ではなくて、あと何枚アルバムを作れば気が済むのかなと考えた時に出てきた数字です。
ここからカウントダウンが始まり3~2~1続くのであります。
「4」には自慢できる様な曲や革新的なアレンジがある訳ではないのですが、この微妙な仕上がりに私はとても満足しています。
2022年に起こった色々な出来事を曲と一緒に自分の記憶に留める事が出来たと感じたからであります。
良いのも悪いのもです。
長々と取り止めの無い話を失礼いたしました。
ウヒョヒョヒョヒョ!
追伸
夏のツアーの折「今年はCD出ませんね」とのお言葉を名古屋シマウマ書房の鈴木氏に頂き「ならば!」と一念発起いたしまして年内発売に漕ぎ着けたのでございます。
優しい「本の虫」さんに感謝いたします。
福岡史朗(斑鳩ジョニー)