ミッキー


















小学校3年の頃。


ボクはデニムのジャンパーが欲しくて仕方なかった。


Gジャンってやつだ。


ボクがカッコイイと思う男はGジャンを着ていた。


すり切れて色あせた感じがワイルドで男らしいと思っていた。


ボクの母さんは「男は格好なんてどうでもいい。中身を磨け!」と理不尽な事を平気で言う人なので「Gジャンが欲しい」と言ってはみたが「中身を磨け!」とまったく取り合って貰えなかった。


それでもこれからクールでワイルドになる予定のボクは、くじけずGジャンが欲しいと訴え続けた。


そして、次の年の誕生日にとうとう買ってもらえる事になった。


待ちに待ったその日がやって来た。


憧れのGジャンの入った紙袋を手渡され、期待に胸を躍らせて中身を出した。


それはまぎれも無く待望のGジャンであった。


ボクは小躍りして「ありがとう!」を繰り返し叫んだ。


それから憧れのGジャンをほくそ笑みながらたがめずがめつ眺めた。


表は穴が空くほど眺めたから次は裏を穴が空くほど眺めようと裏返してみた。


「あ〜〜〜〜〜っ!!」と思わずボクは叫んでしまった。


事もあろうに背中一面にミッキーマウスがプリントされているではないか!


クールでワイルドなはずのGジャンなのに、おもいっきりカワイイじゃないか…。


がっかりである。


クールでワイルドになる予定だったボクは「なんでミッキーなんだよ…」と呟きシクシクと泣きました。


母さんはよかれと思って選んでくれたんだろうけど、ボクにとってGジャンミッキーは屈辱だった。


その屈辱的なGジャンミッキーをボクは3年生から5年生まで着つづけた。


丈が短くなってボロボロになったミッキーはそれなりにワイルドだった。


ミッキーはワイルドになったが、ボクはあんまり変わらなかった。